セカイノカタチ

世界のカタチを探求するブログ。関数型言語に興味があり、HaskellやScalaを勉強中。最近はカメラの話題も多め

ひと狩り行くならこれ!ハンティングシミュレータ「theHunter: Coll of the Wild」(ゲーム感想文)

人には狩猟本能がある。ホモ・サピエンスが誕生したのは20万年前と言われているが、農耕の始まりはそれよりもずっと遅く約1万年前まで待たなければならない。その間、人類は何をしていたかというと・・・そう、狩猟により日々の糧を得て生き延びてきたのである。私達にとって狩猟本能とは、DNAの奥深くに刻まれた自然な欲求であり、生物としての根源的な生きる喜びをもたらしてくれるものだ。

しかし、現代において狩猟によって生計を立てている人はごく僅かだろう。ほとんどの人類は獲物を追うのをやめ、狩猟や殺生とは直接関わらない生活を送っている。では、狩猟本能は衰退してしまったのかというと、そんなことはなく、日本においても釣りは人気のレジャーの一つであるし、サッカーや野球などのスポーツについても、「白球を追いかけ捕まえる」などの行為は、狩猟の抽象化であり、うまく狩りのエッセンスを記号化し、ルールに落とし込んだ競技が今もゲームとして人々に親しまれている。

では、逆にゲームを極限まで狩猟に近づけるとどうなるのであろうか?

その答えが、このゲーム「theHunter: Call of the Wild」である。このゲームは一人称視点のオープンワールドゲームとなっており、息を呑むような美麗なグラフィックで再現された広大な自然環境を歩き回り、獲物の足跡を辿って追いすがり、息を殺してチャンスを伺い、一瞬の機を捉えて引き金を引き、仕留めるという本物さながらのハンティングを楽しめる作品となっている。人によって向き不向きがあることは否めないが、狩猟本能全開で時間が経つのも忘れて鹿や狐を追いかけ回してしまう私のようなタイプの人は、己の中に眠っていた野生に驚くことになるだろう。

雄大な景色の中で鹿を追いかける

実際のプレイ内容

初めて、thHunterの世界に降り立ち、緊張とともに周りを見渡すとスマホに着信があった。恐る恐る受信のボタンを押すと、短いチュートリアルが始まりだった(このゲームでは、ミションの依頼やガイドなどはスマホによる通話を通じて行われる。現代的である)。ここで目の前に小ぶりな鹿が現れ、近づいて仕留めるように促される。運が良ければここで初めての獲物を得ることになり、ハンティングの最初の喜びを味わうことになるが、運に見放されれば最初の挫折を味わうことになる(ちなみに私は仕留めそこねた)。

初めての狩りの興奮も束の間、あてどもなく森をさまよい歩き始めると、今度は不安が襲ってくる。あまりにもリアルなグラフィックで描かれる大自然の中(小屋や線路などの人工物も存在するが)、人影もまったくない世界に放り出される。この世界では自分以外の人形モデルの描画は一切なく、動物たちだけが歩き回り、我が世の春を謳歌している。一応スマホからは「アウトポストを探して」とか「監視塔を見つけて」などの指示が飛んでくるのだが、アウトポストも監視塔も最初は意味がわらないので、ますます不安が募るばかりである。

これは流石に予備知識ゼロで始めすぎたのだが、アウトポストとはゲーム内の拠点のことで、これを発見して解放するとファストトラベルの起点となる他、ベッドで睡眠したり銃や道具を買えるようになる。監視塔は、いわゆる「マップ解放」ポイントで、オープンワールドゲームではありがちな高所から見晴らす事により、周辺の地図がより詳細になり(と言っても道と山と池とかしかないのだが)、先述のアウトポストがマップ内にあれば場所がわかるようになる。つまり、先に監視塔を見つけなければアウトポストの場所がわからず、拠点がない状態となるので、ゲームを進める順序としては「マップ解放→拠点解放」が順当で、これを繰り返す形になる。

なにせ広いので、マップ解放だけでもそれなりにやりごたえがあるのだが、本作の目的はそこではない。獲物を見つけて、追いかけ、仕留めることが目的である。そのためには闇雲に歩き回っていても仕方がない(最初は闇雲にあるき回るしかないのだが)ので、獲物のヒントとなる足跡とフンを追跡することからハンティング生活を始めることになる。一部には「一日中フンを追いかけていた」「フンを追いかけて野山を歩き回るゲーム」「フンゲー(クソゲーではない)」という声があるぐらい、フンを追いかけるのが重要なゲームである。

森の中を歩き回っていると、すぐにあちこちに動物の足跡があることに気づく。それらは近づいて調べることにより動物の種類と方向がわかるようになっている。つまり、理論上は足跡の方向に追跡していけば必ず獲物に会えるという寸法だ(ただしそう甘くはないのだが)。足跡を追いかけていくと、一定間隔でフンが落ちている。フンは、その鮮度(!!)から、動物がその場所を通ってからどのぐらいの時間が経っているかという情報をハンターに与えてくれる。そのため、「足跡を発見したら追跡を開始し、途中落ちているフンを調べることで、この場所を通ってからの経過時間を確かめて、あまりに時間が経っているようなら"見込み薄"として別の足跡を探しに行く」というサイクルでゲームを進めることになる。

足跡をたどって上手く獲物に鉛玉を当てることができればハンティング完了である・・・というわけでもないのがこのゲームの意地悪(?)なところで、上手く急所に当てればすぐに獲物は倒れるのだが、そうではない場合は一目散に逃げ始める。ハンターと獲物の追いかけっこの始まりである。獲物は傷を負い出血しているため、血痕が点々と残るようになる。そのため、今度はこの痕跡を追いかけて獲物が失血死するのを見届けなければならない。この際に傷が浅いと血が止まってしまい、ハンティング失敗となる。

このように狩りの各ポイントに難しい点が存在しており、これらをうまくこなして運を手繰り寄せないと、今日の獲物にありつけないという醜態をさらす羽目になる。

おさらいすると、以下のような流れになる。

  1. 監視塔に登ってマップ開放
  2. アウトポストを見つけて拠点とする
  3. 動物の足跡を探して追いかける
  4. フンの鮮度から獲物ととの距離を推し量る
  5. 獲物に弾を当てる
  6. 負傷した獲物を追跡する

実際には、獲物の声に似た音を出すルアーを使ったり、茂みやハンティング用の小屋に隠れて獲物をまったりと、多様な戦術を取ることができるため、この限りではないのだが、一番オーソドックスな流れとしては、これを繰り返すことになる。

その上で、各マップにはそこそこボリュームのあるクエストとメインシナリオが用意されているため、特定のポイントに移動して罠を解除したり、指定されたエリアで指定された獲物を狩るなどの遊びも用意されている。ミッション達成による報酬や経験値あるので、これらを進めながらマップを解放し、途中で見かけた獲物を追いかけているだけで、100時間以上はゆうに経ってしまうだろう。狩りの対象となる動物も多種多様あり、ハンティングのための武器や道具も大量に用意されているため(一部DLC)、様々な組み合わせを試そうとすると時間がいくらあっても足りないということになりかねない。

そんな中で、プレイヤーを待っているのは冒頭にも述べた美麗なグラフィックによる大自然である。正直、このゲームはハンティングが上手く行かなくてもどうってことはないと思っている。なぜなら、雄大な大自然の中をゆっくりと散歩して草木を愛でているだけでも、日頃のストレスフルな日常生活から解放され、心の癒しになるからだ。この癒やしの効果は素晴らしく、産業医のカウンセリングに取り入れても良いぐらいだと思っている。

獲物をスコープの中央に・・・

考察

theHunterは、人を選ぶゲームだと言われている。私もプレイしてみて「これは人を選ぶな」と感じている。わかりやすく敵との撃ち合いがあるわけでもなく、アイテムのドロップや目まぐるしく変わるステージがあるわけでもない。プレイフィールは非常にゆっくりとしていて即効性に欠けるリズムで進行していくため、取っ掛かりの難解さも合わせて合わない人はすぐに投げ出してしまうことも想像に難くない。

しかし、一方で合う人はとことん魅力に取り憑かれるであろうというのは、私の体験としてお伝えしたい。冒頭でも述べたとおり、人には狩猟本能があり、獲物を追いかけて引き金を引くという行為は、理性では推し量れない深いところから湧き上がる興奮と感動をもたらしてくれる。このゲームの武器には弓も存在するのだが、弓による狩猟は銃のそれとはまた一味違う面白さがあり、あまり音を立てないので獲物が逃げにくいという特性もあるのだが、比較的飛距離が短い故に至近距離から放たれた矢が獲物の心臓を刺し貫いた時の手応えは不思議な感触として手の内に感じられるのだ。

ここまで来ると「狩猟フェチ」と呼べるような変態の域に足を踏み込みそうで恐ろしいのだが、自分の中に眠るドストレートな狩猟本能と向き合う機会が訪れるかもしれない。

苦労した分、獲物を仕留めた時の喜びは格別だ

評価

繰り返すが、theHunterは、人を選ぶゲームである(断言)。そのため、私にそそのかされてこのゲームを手にとった人全てに満足いく体験を味合わせることができるかは自信がないところである。しかし、合う人にはとことん会うし、本体価格もSteamのセール中なら500円を切るので試してみることをおすすめする(奇しくも現在はSteamサマーセール中で492円で手に入れることができるようだ。さらに昨日、大型アップデートで新マップDLCが公開された。3か月に1度ほどのペースで新たなマップが追加されるので、その点でも長く楽しめるゲームである)。

(蛇足であるが、これまた奇しくも明日は「ひと狩り行こうぜ!」のゲームの大型DLC発売日となっている。私も購入してプレイを待ちわびている一人ではあるが、こちらの「ひと狩り」もぜひトライしてみて欲しい)