セカイノカタチ

世界のカタチを探求するブログ。関数型言語に興味があり、HaskellやScalaを勉強中。最近はカメラの話題も多め

情報の特異点とマクスウェルの悪魔

Angel.

news.mynavi.jp

こちらの記事ですが、もう6年前になってしまいました。

この話を元にした仮説を何らかの形で文章にしたいと思いながら、ズルズルと時間が経ってしまいました。

マクスウェルの悪魔とは

きっかけとなった、マクスウェルの悪魔ですが、Wikiによると、粒子の運動を観測し制御することにより、エントロピーを減少させることが出来るという理論です。理論は以前からあったのですが、これを実験にて観測したのが、冒頭に貼ったニュースとなります。

ただし、この実験は、熱エントロピー増大則に反する現象が観測された訳ではなく、情報を記憶し、記憶した情報を消去する際にエネルギーを必要とするため、系全体としてのエントロピーは増大しており、熱力学第二法則に反さないことが解っています。

では、特に面白みのない実験結果なのかというと、そうではありません。

マクスウェルの悪魔は、熱力学第二法則には反しませんが、「系の一部においては熱エントロピーが減少し得る」という結果は揺るぎないものです。

このことからは、熱エントロピーは、均一に拡散的に増大していくわけではなく、場所や時間によって、増大したり減少したりする性質のものだという結論が導き出されます。これは、私達が日頃認識している世界の構造と違和感なくマッチします。

つまり、熱エントロピーは、この宇宙において「シワ」の様に伸びたり縮んだりしながら全体としては伸び続けているゴム風船のような存在だということです。

熱エントロピーを増減させる「情報」の正体とは

冒頭の実験の結果は、熱エントロピーが「情報」を制御することに寄って偏りを生むことが出来るということを表しています。

では、熱エントロピーを増減させる「情報」とはなんなんでしょうか?

人間原理を最大限に酷使すれば、「ヒトが認識する故に情報は存在する」といえるかもしれません。

これは本当でしょうか?

ナスカの地上絵は、石ころを並べたものです。

先住民の狩猟では、折れた枝や並べた石ころが目印になります。

アリは、仲間のアリが残したフェロモンによって正しいルートを判断します。

獣たちも道を作り、魚だって産卵場所を特定するために様々な目印を利用します。

雨が降れば川ができますが、すべての水は前の水が通った道筋を追いかけて同じ場所を通ります。

波に洗われた岩場が規則正しい模様を作ることもあります。

そうでなくとも自然は、非常に整合性の取れたシステムをとても長いスパンの間、繰り返しています。

偶然による粒子の偏りによっても熱量は増減します。むしろ、自然現象の中で熱や物質の偏りと言うのは、日常的に観察されます。

これは、一時的な熱エントロピーの減少とは言えないでしょうか?

最先端の科学装置で観測された、情報制御によるマクスウェルの悪魔の存在と、そこらじゅうで普遍的に発生している物理現象の境界線はどこにあるのでしょうか?

僕は、この境界線は「存在しない」と思っています。

つまり、大学の研究室で観測される「情報」も、大気の温度にムラが出来るといったような物理現象による「情報」も、両者を決定的に分かつような決定的違いを定義することは出来ないと言うことです。

おはじきが隣のおはじきを弾き飛ばした時、両者のおはじきの間で情報のやり取りが行われ、状態が更新されます。

最初の状態から、次の状態へ遷移するためには何らかの物理的な働きかけが必要で、そして物理的な働きかけというのは常に両者の状態を変化させます。

先の実験では、たまたま非常に複雑な構造をしたICチップやセンサー類などの実験装置が、運動する粒子に効果的に働きかけることにより、ごくごく少量の物理現象の相互作用を人が観察し得るほどに増幅した結果を観測し、「情報によりエントロピーが減少した」として扱い、マクスウェルの悪魔の存在を観測したと認識したに過ぎないわけです。

おはじきがぶつかりあう現象と、マクスウェルの悪魔の実在の確認の間に質的な違いがあるようには思えません。単に、情報量の違いがあるだけです。

これは、同じように観測問題を引き起こしている、シュレーディンガーの猫のような現象にも言えることです。

極微量な物理現象が、テコの効果によって最大限に拡大された結果、人が日常的に観測している世界とはまるで違う現状が起こってしまったかのように感じ、受け入れがたい感情が起こりますが、たいして不自然なことではないのです。

結論として「情報」とは、すべての物理現象を指します。人間や生物が関わる必要もありません。

何かと何かが、お互いに干渉し合うだけで、何らかの情報のやり取りが発生し、お互いの熱エントロピーは、微量なれど減少します。

つまり、物質同士(粒子同士)の相互干渉は、すべて情報伝達という側面をもっているということです。

こう考えることで、熱エントロピーが拡散と収束を波のように繰り返すという観測的な事実と、熱エントロピーが一方的に拡散し続けるという物理法則が、綺麗に合致します。

熱エントロピーの局所的な減少が引き起こすこと

原始的な物理現象から始まり、熱エントロピー増大則に反した局地的なエントロピーの増減が発生します。

これは情報の偏り、「シワ」のようなものです。

最初は、粒子の相互作用のような、弱く微小な物理現象により、観測限界を下回るような微小なシワが起こります。

やがて、物質同士がより集まり、天体のような大きな物理現象を引き起こすようになります。

天体にはやがて生命が生まれ、生命はその複雑な動きや増殖や代謝する性質により、より大きな熱エントロピーの減少を発生させます。

そして、DNAによって生物が進化する事により、様々な現象が起き、脳や手足をもって動き回る生物が誕生し、猿や人のように学習や伝達によって文化を伝えていくことが可能な種族が発生すると、その複雑さ、つまり情報量という名の熱エントロピーの減少量が、飛躍的に増大していくことになるのです。

熱エントロピーの減少は、別の言い方をすると秩序の構築です。

生命の誕生、DNAの発生、様々な進化、ヒトの誕生。

時間の経過とともに、熱エントロピーは確実に増大します。しかし、それに反するかのように、構築される秩序は大きく複雑になっていくのです。

最初は、観測限界を下回るような小さな変化ですが、組み合わさり、重なり合うことで次々と大きな変化を生むようになります。

現代は、コンピュータやインターネットの発明により、蓄積される情報の量がかつて無いほどに大きくなっており、それは加速度的に増大の一途を辿っているわけです。

この見方から世界を眺めると、現在は、マクスウェルの悪魔が最大限の力を発揮して、世界の「シワ」を極限まで寄せ切っている状況のように見えます。

このまま行くと、どのような世界が待っているのでしょうか?

人類とその文明は、系全体としては熱エントロピーを増大させながら、局所的にはコヨリの様に尖った1点に情報を収集させ続ける、全宇宙の中でも特殊な場所のひとつです。

情報を局所に集める力が極限にまで高まった時、重力によるブラックホールになぞらえるような、情報のブラックホールと言えるような特異点が発生する可能性があります。

ブラックホールにおいて、普遍的な物理現象が存在しつつも、極限までねじ曲がることで意味をなさなくなるように、熱エントロピー増大の法則は存在しつつも、それを打ち破るような秩序の力によって、無限に進化し続ける特異点となって宇宙の情報を吸い込み続ける極点が出現するのです。

それは、「情報の特異点」と呼ばれる現象なのかもしれません。

果たして、我々の進化はどこまで続くのでしょうか。

太古の昔より運ばれてきたDNAは、どこか目的地をもっているのでしょうか?

極限まで進化した先に、物理法則をも凌駕する様な境地に達するというセカイノカタチ。

そんな世界を考えています。